研究室紹介


3つの研究要素
3つの研究要素

私たちの研究室では、以下の3つの研究要素を展開しています。

  1. 金属ナノ粒子
  2. シンクロトロン放射光を用いた電子状態の観測
  3. 分光計測技術や解析手法の開発

ここでは、それぞれの内容について簡単に紹介します。

 

また、研究室のメンバーや学生の研究生活、研究テーマについては次のページをご覧ください。


1. 金属ナノ粒子

ナノ粒子とは、「バルク(塊)」よりも小さく「原子」や「原子クラスター」よりも大きな粒子のことです。一般的にバルクとは異なる物性をもつことで知られています。これは、バルクとナノ粒子で電子状態の構造が大きく異なることが理由です。

金のナノ粒子のTEM像
金のナノ粒子のTEM像
バルクとナノ粒子の違い
バルクとナノ粒子の違い(JST HPより)

具体的には、ナノ粒子の粒径が 5 nmより小さくなると「量子サイズ効果」が起き、上図右のようにバンドに離散的な電子状態が現れます。2 nmより小さくなるとさらに「クーロン閉塞現象」が発生します。こうしたバルクとの違いを利用することで、

  • 単電子トランジスタ
  • ナノ光デバイス
  • 燃料電池の触媒
  • 人工光合成の触媒

などの次世代デバイスへの応用が期待されています。

 

私たちは、ナノ粒子を用いた次世代デバイスへの材料開発と、そのための材料の電子状態の観測を行っています。

 


2. シンクロトロン放射光を用いた電子状態の観測

材料の組成や機能を調べるためには、電子状態の観測が必要不可欠です。電子状態の観測では、材料の中でどのくらいのエネルギーをもった電子が多く存在するのかを、様々な手法を用いて調べます。このときに「シンクロトロン放射光」とよばれる光を使用します。

 

兵庫県播磨科学公園都市にある大型放射光施設 SPring-8 と X線自由電子レーザー施設 SACLA (RIKEN HPより)
兵庫県播磨科学公園都市にある大型放射光施設 SPring-8 と X線自由電子レーザー施設 SACLA (RIKEN HPより)

シンクロトロンとは、電子などの荷電粒子に電場をかけることで加速させて、磁場と電場によって一定の半径をもつ円形軌道上を運動するようにさせる円形加速器の一種です。「放射光」とは、そのシンクロトロン内を運動している電子が磁場の中でローレンツ力によって曲げられるときに放射される電磁波のことです。

 

放射光には、赤外線から硬X線までの広いエネルギー範囲の光が含まれています。このため、実際に放射光で測定を行うときには、測定したい材料や条件によって光のエネルギーを選ぶことになります(単色化)。

 

それ以外にも、「高輝度」「低エミッタンス性」「偏光」「パルス光」などの特長があります。

 

日本国内の放射光施設
日本国内の放射光施設

日本国内には放射光施設が数か所あり、私たちの研究室では愛知県内にある「AichiSR」「UV-SOR」と、兵庫県の播磨科学公園都市にある「SPring-8」「SACLA」を利用しています。このうち、SPring-8は世界の中でも最高性能を誇る放射光施設であり、またSACLAも放射光施設としては世界でも最先端の施設です。これらの放射光施設について詳しくは各HPをご覧ください。

 

放射光を使った分光法(Spectroscopy)
放射光を使った分光法(Spectroscopy)

サンプルによって光がどれだけ吸収・反射・透過されるかを波長ごとに調べる手法のことを「分光法(Spectroscopy)」といいます。

 

X線による主な分光手法は大きく分けて「光電子分光(XPS)」「X線発光分光(XES)」「X線吸収分光(XAS)」の3種類あります。私たちは、これらの分光法を用いた研究に力を入れています。

 

放射光のスペクトロスコピーでわかること
放射光のスペクトロスコピーでわかること

サンプルの電子状態を調べる手法であるXPSは、これまで生命科学・物質科学・化学・天文学・医学・産業利用など様々な場面に用いられてきました。ただし、ほとんどが固体と気体のサンプルの計測であり、液体サンプルを計測した研究例は極めて少ないものでした。

 

XPSでは、サンプルから出てくる光電子を測定します。この光電子を検出器でとらえるには、サンプルと検出器の間を高い真空状態で保つ必要があります。液体のサンプルでは、この測定条件を達成することがこれまでは困難であるとされてきました。

 

これらのことを踏まえて、私たちの研究室ではSPring-8にて、これまでも当研究室の強みとしていた「硬X線光電子分光(HAXPES)」の知見と新開発した「溶液セル」によって、液体と固体の界面での電子状態の観測にはじめて成功しました。

 

SPring-8 BL47XUのHAXPES装置
SPring-8 BL47XUのHAXPES装置

通常のXPSと比較して、HAXPESは高いエネルギー領域の「硬X線」を利用することから、サンプル表面のみでなく深さ数十 nm程度のバルク領域の電子状態を非破壊で観測することが可能です。HAXPESによる、多層膜などの「埋もれた界面」の分析などの新しい研究も拡がっています。

 

液体サンプルの測定を可能にした「溶液セル」
液体サンプルの測定を可能にした「溶液セル」

また新規開発した溶液セルの技術を用いて、

「一塩基変異体(SNP)の分析システム開発」や

「金錯体めっきの分解過程解析」

に代表される様々な大学や企業との共同研究を展開しています。

 詳しくは「研究テーマ」のページをご覧ください。



3. 分光計測技術や解析手法の開発

高輝度・エネルギー連続性の特長があるシンクロトロン放射光を用いて、一般に分光計測技術が発展しています。しかし、シンクロトロン放射光はどこでも生み出せる光ではなく、SPring-8やAichiSRのような大掛かりな施設が必要となります。また、HAXPESのような硬X線を用いる分析装置は、単色光の光源は用意できても、検出器の高分解能化など様々な課題を持っていました。

 

私たちの研究室では、放射光施設での計測の知識を活用して、実験室環境でもHAXPESを測定できるような計測装置「Lab-HAXPES」の開発、改良に取り組む予定です。

Lab-HAXPES (Scienta Omicron)
Lab-HAXPES (Scienta Omicron)

また、従来のHAXPESではサンプルに入射させる硬X線は測定時に一定のエネルギー値しかとれませんでした。そこで、高輝度光科学センター(JASRI)と大阪府立大との共同研究によって、入射X線のエネルギーに時間変化を与えながら測定を行う「共鳴硬X線光電子分光(rHAXPES)」と呼ぶ分析手法をSPring-8 BL09XUに開発しました。これによって、X線の吸収端をまたぐように入射光エネルギーを掃引することで、元素や軌道に対する選択性を有した電子状態の解析を可能としました。

rHAXPESの概要
rHAXPESの概要

分光法で測定された結果は、入射光のエネルギー値と検出物(光電子や透過光、吸収光)の強度の2つの情報をもつスペクトルとして得られます。このスペクトルからサンプルの物性を調べるには、適切なモデル関数を用いて、ピーク幅・位置・面積・成分の数などのパラメーターを求めることが重要なプロセスになります。

 

従来の解析方法では、パラメーターの値を探索するときに与えられる計算の初期値が異なると、同じスペクトルでも異なるパラメーターが求まってしまうという欠点を抱えていました。より正確にスペクトルから物性の情報を引き出すために、私たちの研究室では従来の「Levenberg-Marquardt法」という解析手法に代わる、新たな指標として「ベイズの自由エネルギー」を用いる「ベイズ推定」と「レプリカ交換モンテカルロ法」を組み合わせた解析手法の開発を行っています。

ベイズ推定の概要
ベイズ推定の概要

私たちはこれからも「X線」を用いた研究に「多角的な視点」で取り組み続けていきます。